樹木医学会会長 福田健二(東京大学)
歴史というとちょっと大袈裟ですが,樹木医学会の前身である「樹木医学研究会」が設立されたのは 1995 年 9 月ですので,本学会は今期(2019 年 10 月~2020 年 9 月)には 25 周年を迎えることになります.会長就任のご挨拶に代えて,本学会の四半世紀のあゆみを振り返り,今後について考えてみたいと思います.
林野庁の補助事業である「ふるさとの樹保全対策事業」の一環として「樹木医」認定事業が開始されたのは 1991 年のことでした.翌 1992 年には日本樹木医会が設立されましたが,人間の医療に医師会と医学会とがあるように,樹木医の診断治療にも基礎となる樹木医学の学会が必要であり,両者が「車の両輪」となって基礎と臨症とをともに発展させていかなければならないとの認識が高まりました.そこで,1995 年 9 月に松田藤四郎氏(東京農業大学学長)を中心とする発起人 39 名の呼びかけにより「樹木医学研究会」設立総会と記念シンポジウム「樹木医学とは何か」が東京農業大学において開催され,初代会長に松井光瑶氏(大日本山林会会長)が選出されました.1996 年 1 月には,「樹木医学研究会ニュース」が創刊され,会員への情報提供を始めました(B5 判のニュースレターで,2006 年 10 月まで計 44 号発行).同年の 7 月と 9 月には東京大学と東京農工大学において研究会(現在のワークショップに相当)が行われ,同年 11 月には東京農業大学において第 1 回大会が開催されました.大会では松井会長と林康夫理事(信州大学教授)による特別講演と 13 題の研究発表が行われました.さらに翌 1997 年には,待望の会誌「樹木医学研究」が創刊されました.伊藤進一郎理事(当時,森林総研東北支所)が立ち上げに尽力され,その後,濱谷稔夫編集委員長(当時,東京農業大学教授)の采配のもとで記念すべき第 1 号が発行されました(翌年の第 2 巻からは年 2 冊,鈴木和夫編集委員長のもとで第 11 巻(2007 年)から年 4 冊となり「樹木医学会ニュース」は廃止).
これらの活動実績により,日本学術会議の学術研究団体の認定要件を満たすに至り,鈴木和夫会長のもと 1999 年 11 月の総会において「樹木医学会」に改称されて,現在に至っています.同年の第 4 回大会は東京大学で開催され,記念シンポジウム「樹を長生きさせるには─研究と現場の連携をめざして─」と題して,加倉井弘氏(NHK 解説委員)の司会により,松田藤四郎(東京農業大学理事長),前田直登(林野庁指導部長),近藤秀明(日本樹木医会会長),柴嵜克子(横浜市緑政局),渡辺直明(東京農工大学演習林)の各氏によるパネルディスカッションが行われました.
当時の私自身のかかわりについても振り返ってみますと,研究会設立時より学会事務局担当,後には総務担当理事としてニュースや会誌の編集・発行にも携わりました.会誌やニュースは,初期には研究室で学生と一緒に封筒に詰めて会員の宛名ラベルを貼り,手提げ袋で本郷郵便局まで持って行って発送していました.
久しぶりに昔の「研究会ニュース」を取り出して眺めてみましたが,研究会設立当初から一貫して,本会は「研究と現場の連携」を目指してきたことが改めて認識されます.現場における観察事実を生物学的に解釈し,そこから得られた仮説を研究者が実験によって確認し,臨症の現場にフィードバックするといった,研究者と現場の樹木医との共同作業を行わなければ,樹木医の技術を科学的に確かなものにしていくことはできません.それこそが,本学会の設立以来の変わらぬ使命だと考えています.
これまでにも,樹木医学会では研究サイドから現場へ最新の知識や技術の伝達を行うため,以前は「研究会」や「例会」,2012 年からは「ワークショップ」を,大学や森林総研のご協力を得て開催しています.また,樹木医と研究者の双方向の情報交換の機会としては,学会大会と会誌「樹木医学研究」での論文や臨症事例の掲載,日本樹木医会地方支部のご協力による現地検討会を行っています.
「樹木医学研究」は,創刊以来,投稿が少なく原稿集めに苦労してきましたが,最近では佐橋憲生前編集委員長のもとで投稿数が順調に増加し,毎号に原著論文または臨症事例が掲載されるようになってきました.編集委員の企画による連載記事も好評を博しており,山田利博新編集委員長のもとで,さらなる充実が期待されます.大会での研究発表も,2018 年の第 23 回大会(九州大学)で口頭 13 件,ポスター 31 件,昨年の第 24 回大会(東京大学)では口頭 16 件,ポスター 36 件と,いよいよ盛況となっています.
2019 年度より樹木医資格にも更新制が導入され,樹木医 CPD の個人申請プログラムとして,学会発表や会誌への臨症事例等の執筆が CPD ポイントとして高く評価される仕組みが整えられました.これを機に,学会としてもワークショップの各地方での開催や,樹木医の臨症事例投稿を支援する取組を進めて,現場と研究との連携がさらに進むように努力したいと考えています.
会員各位におかれましても,学会の活性化にさらなるご協力のほど,どうぞよろしくお願いいたします.
(樹木医学研究 第24巻1号)